高齢者の転倒

健常者にとって歩くことは当たり前のことです。歩くことは自然なことであり、普通の生活の中で人生を犠牲にする覚悟を持って歩く方はいないと思います。当たり前の歩くという行動。この当たり前の行動が高齢者では当たり前ではないのです。歳を重ね徐々に体の自由が利かなくなり足腰の衰えを感じ段々歩けなくなっていきます。少し歩くと疲れてしまいフラフラします。危ないので「杖」を使うようになり、「手押し車」を使い「車いす」を使うようになります。まだ歩ける高齢者も、お出かけの時は車いす持参になり、少しの距離では歩いても普段は「車いす生活」になって行きます。ではなぜ車いすにするのか、「ゆっくりでも休み休み歩けばいいじゃん」と思うかも知れませんが、足腰が弱いということは転倒のリスクがあるということです。ちょっとした躓きで転んでしまったり、突然貧血を起こして転んでしまったりといろんなケースで転倒が考えられます。転倒のにより怪我をしたり頭を打ったりすることがあります。頭を打つと硬膜下血腫の可能性があります。

 

硬膜下血腫(慢性硬膜下血腫):転倒などにより頭を打ち、頭の中で出血を起こすこと

 

硬膜下血腫は外傷がない時があり(外傷がない場合が多い)見た目では解りません。転倒直後はちょっと痛いくらいで問題ないと思っても、頭の中からジワジワと出血がありある程度の出血が頭の中で溜まると出血の場所により口が利けなくなったり、反応が遅くなったり、食事が摂れなくなったり突然意識がなくなったり、いろんな症状を起こします。最悪「死」に繋がります。

因みにこの硬膜下血腫を調べるには脳外科などでCT撮影をすることがあります。転倒直後にはCT撮影で問題ないのに1~2か月後にジワジワと出血する慢性硬膜下血腫が考えられます。特別養護老人ホーム リトルガーデンでは転倒直後と問題なくても1か月後にCT撮影にて経過観察をしていました。高齢者が1度健康状態から外れると元に戻るにはとても大変です。状況によってはもう元にはも戻らない可能性もあります。転倒して頭部打撲は大変大きな問題になります。

 

転倒し頭部打撲がなくてもよくあるのが大腿骨頚部骨折(股関節の骨折)です。この大腿骨頚部骨折をすると痛みはもちろん歩けません。股関節の骨折なので立ち上がることはできる方もいましたが、足を前に踏み出すことが出来ません。すなわち歩けません。当然股関節を動かすと物凄い痛みが生じます。転倒すると当施設では股関節のレントゲン検査をするために診療所に駆け込みます。この診療所にはCT及びレントゲン撮影ができるので両方の検査をします。レントゲン結果、大腿骨頚部骨折している場合は地元の総合病院搬送になり、1~2か月ほどの入院そして手術をすることになります。この手術をしないと2度と歩くことが出来なくなります。「もう歩かないから手術はしなくてもいい」という家族の方もいますが、歩けない方のほとんどはオムツ対応になり、そのオムツ交換時に耐えられないほどの痛みが生じるのです。なので大腿骨頚部骨折の場合にはほとんどのケースで手術をすることになります。ですがこの手術も高齢者にとっては大きな問題になるのです。

 

痴呆症はあるが歩ける方が骨折した場合、本人が入院していると理解できなくてベットから降りてしまったりして危険な為、拘束をします。拘束とはベットに縛り付けて動けなくすることです。可哀そうに見えますがこの拘束をしないとより危険なことになってしまいます。縛られているので「助けて」「誰か来て」などの大きな声を出します。病院に入院患者のお見舞いに行くとどこからともなくこのような声を聞くことがありますが、それはこれらの方のこのような状況から出た声なのです。

手術が終わっても退院するまでの1~2ケ月は拘束されているため、当然筋肉は落ちるのでこの入院をきっかけに手術は成功しても歩けなくなっていしまう方が大勢いるのです。

痴呆症がない方は手術後数日でリハビリを始めます。しかし高齢者はこの歳での手術や入院で落ち込んでしまい気力がわかずリハビリを行わない方が大勢います。この骨折をきっかけに歩けなくなってしまう方が大勢います。

 

痴呆症でない方でも入院すると環境が変わったことで一時的に痴呆症の症状が起きる方がいます。一時的とはいえ痴呆症になると拘束されます。拘束されるので動けなくただ縛られて寝ているだけ。刺激もなく本当に痴呆症になってしまう方が大勢います。

 

(心臓病や糖尿などの病気が原因で手術ができない方もいます。手術ができないと2カ月は程は痛みが残ります)

 

病院とは治療する場所であって、介護する場所ではありません。治療優先です。介護は二の次になります。ですから治療の為に拘束が許されているのです。

(拘束は入院するにあたって家族に許可を取ります。この許可がなければ病院は拘束できません。拘束できなければ病院としては治療ができないので入院はほぼできません、もしくは24時間家族の付き添いになります)

 

病院は治療する場所

特別養護老人ホームは介護する場所

この違いは大きいです。

 

高齢者はいろんな病気治療をしている方が殆どです。高血圧や糖尿病、心不全などなど。嚥下機能が低下している方も多いです。普段の環境と違うことや、これらの病気も相まって入院中に亡くなられてしまう方も大勢います。骨折で入院したのに「心不全で亡くなった」とか「誤嚥性肺炎で亡くなった」との話はよくあることなのです。

 

入院にあたってサマリーというものを書きます。

サマリーとはその入院患者の普段のADLを書きし記した書類になります。看護師同士では当たり前の書類になります。施設側の看護師が病院の看護師に情報提供をします。

 

サマリーにはその患者の名前から年齢・性別・病気の既往歴・服薬している薬ご飯は何を食べているか・普通食か刻み食か、排せつはトイレかオムツかなど細かな情報が掛かれています。

 

ADLとはその方の頭や身体的な状況を言います。

ADLが高い・・・健常者に近い

ADLが低い・・・健常者から遠い

こんな感じでとらえて下さい。

 

このように高齢者の「歩く」行動は時には命に関わってくることを理解して下さい。

特別養護老人ホーム リトルガーデンでは入居者を家族から預かっている立場なので、拘束させずに転倒させないように気を付けているのです。それでも転倒は度々起こってしまいますが。(転倒した時は家族に一報を入れている)

基本的に特別養護老人ホームでは拘束は禁止です。拘束をした場合には補助金に影響するので、懐寂しい介護業界では拘束はできないのです。

 

入居者の転倒には本当に気を使い業務での負担になっているのです。