施設オープン

施設がオープンし(特別養護老人ホーム リトルガーデン)初めて利用者が入ってきました。最初に入居者になった方は井上さん含む3名でした。(私の担当フロア)

 

*施設名及び登場人物の名前はすべて仮名です。個人情報保護の観点から特定は勘弁して下さい。

 

井上さんはおっかなびっくり不安定な歩行をします。痴呆があり、言葉が通じているのかいないのか?私が「井上さん始めまして、職員の鈴木と申します、よろしくお願いします。井上さんは「おう」との返事のみ、そしてふらふら施設の廊下を行ったり来たり、転倒の恐れがある為とりあえずついていきました。何度声をかけても「おう」との返事のみ。

私「井上さんお腹空きました?」

井上さん「おう」

私「疲れませんか?)

井上さん「おう」

私、「今日はいい天気ですね?」

井上さん「おう」

私、言葉通じているのかな?理解できてるのかな?

私、「井上さん歳はいくつになりました?」

井上さん「おう」

私「井上さんここはどこですか?」

井上さん「おう」

私、「井上さん今の総理大臣は誰ですか?」

井上さん「おう」

あれ、井上さんは言葉が通じていない、これが痴呆の症状なんだ。

初めての痴呆症の方との出会いでした。今まで30年ほど生きてきた中で痴呆の方やお年寄りとのかかわりがほとんどなく衝撃を覚えました。

一見言葉が通じていそうなのに実際には通じていない、見た目は普通に話が出来そうなのに出来ない、どうやって接していけばよいのやら。そうこうしているうちに井上さんは突然廊下で放尿を始めました。私、いきなり修羅場、他の職員に助けてもらいトイレ誘導とその処理。初日から衝撃だらけ。自分の今までの常識とのかけ離れた行動のオンパレード。

他の入居者の方も車いすであっち行ったりこっち行ったり、話しかけても返事もありません。他の施設で働いていた方に聞くと、「痴呆の症状だから見守りだけで安全を確保していれば良いよ」と言われ、見守りに徹していきました。

 

食事の時間になると、本能のみで食らいつくように食べている人、食事が目の前にあるのにただただボォーとしている人、食べたいのに自分では食べられない人など。

食事も普通食、刻み食、ミキサー食。飲み物も普通のお茶、トロミを付けたお茶。嚥下機能によって分けられていました。

 

普通食:健常者が不通に摂る食事形態

刻み食:副食(おかず)を細かく切って食べやすい大きさにした食事形態

ミキサー食:副食をミキサーで刻みトロミ剤を加えて嚥下しやすくした食事形態

 

その他に主食(コメ飯)が普通の炊き方とおかゆにしたもの、ミキサー後トロミ剤を加えたものに細かく分けられていました。

お年寄りは嚥下機能が低下している方が多いので食事にはとても気を使いました。

嚥下機能とは食べ物や飲み物の飲み込む力の事を言います。嚥下機能が下がっている方を無理な食事形態で食べさせるとむせてしまい、誤嚥性肺炎をこじらせてしまいます。

入所に当たり家族の方に普段の食事状況を細かく聞き、本当に食事には気を使いました。

 

食事の他に大変なのがトイレ誘導です。頭がしっかりしている方はたとえ歩けなくても「トイレに行きたい」と言って下さるので、その都度誘導してあげればすみます。足腰はしっかりしているのに尿意の訴えができない方が大変でした。定期的にトイレ誘導してもなかなか排尿排便をしてくれなかったり、トイレ誘導時には排尿排便をしてくれなかったのにトイレを出てすぐに漏らしてしまったり、慣れるまではこのトイレ誘導がとても大変でした。普段車いすを使用している方をトイレ誘導する時の介助もなかなか大変です。便器に座らせる為に手すりに摑まってもらい介助者がパンツをずらし(介護用リハビリパンツなど)便器に移動させます。立てない方なので支えながらパンツを降ろす、この介助も慣れないとなかなか難しかったです。

寝たきりの方は基本オムツです。定期的にオムツ交換をします。オムツ交換は慣れるまでに時間が掛かります。寝たきりでも理解力があり拘縮がない方であればこちらに協力してくれるのでオムツ交換もスムーズに出来ます。(拘縮とは体の関節などが固まってしまい動かない曲げられない硬くて曲がらない方、腕や足、股関節など)しかし理解力がない方で何をするにも抵抗する方のオムツ交換は大変の一語に尽きます。

抵抗と書きましたが、入居者によっては暴れる暴言を吐く噛みつくなど酷いもんです。蹴られる殴られるしょっちゅうです。特に男性入居者で女性ケアワーカーだと余計に酷いらしく、介護に慣れるまでは泣きそうになりながらオムツ交換をしていた方もいます。

介護される方のDVをよく言われますが、実際には介護する側が受けるDVもあります。施設で働くケアワーカーが受けるDVはたくさんありますし、経験しなくては解らない実情があります。

このブログを通じ、その実情を次回から少しずつ話していきたいと思います。